亡くなった父の財産は実家の土地建物と預金なので、母に全て相続してもらおうと思っているんだよね。
子は私一人だけだから、私(子)は「相続放棄」すればいいんだよね?
おとはさん
目次
相続放棄とは
相続放棄については民法で定められており、決められた期間内に家庭裁判所へ手続をすると最初から相続人ではなかったものとみなされます。相続放棄は、被相続人の権利や義務を一切受け継がないようにする手続です。
お亡くなりになり、相続される人のことを被相続人(ひそうぞくにん)といいます。
相続する人は、相続人(そうぞくにん)といいます。
相続放棄の効果
相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったものとみなされます。
939条
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
- 財産を相続する権利がなくなる
- (同順位に相続人がいないと)相続権が後順位へ移動する
効果1. 財産を相続する権利がなくなる
被相続人の財産は、相続人が相続します。「初めから相続人とならなかった」ということになるので、被相続人の財産を(プラスの財産もマイナスの財産も全て)相続する権利がなくなります。
つまり、被相続人の預貯金や、被相続人名義の実家の土地建物など、全てのプラスの財産を受け取ることができなくなります。
また、被相続人の借金や未払いの税金など、全てのマイナスの財産を支払う必要が無くなります(マイナスの財産自体が消えて無くなるわけではないので、相続放棄をしなかった他の相続人は支払う必要が残ります。)。
おとはさん
ここでいうプラスの財産は、被相続人の現金・預貯金・不動産・株式・動産(モノ)などの財産のことをいいます(積極財産ともいいます)。マイナスの財産は、被相続人の借金・未払いの税金・未払いの医療費などのことをいいます(消極財産ともいいます)。
効果2. (同順位に相続人がいないと)相続権が後順位へ移動する
「相続人とならなかったもの」とみなされるので、同順位に他に相続人がいないときは、次の順位の人が相続人になります。同順位の他の相続人も全員相続放棄すると、同順位の相続放棄した相続人は全員「相続人とならなかったもの」とみなされるので、次の順位の人が相続人になります。
同順位に相続放棄しない相続人がいれば、相続放棄しない同順位の相続人が相続し、次の順位の人は相続人にはなりません。
被相続人に配偶者(妻)と子が一人いて、子が相続放棄した場合
相続放棄をしないと、配偶者(妻)と子(第一順位)の二人が相続人です(図左)。
子(第一順位)だけが相続放棄をすると、子(第一順位)は「初めから相続人とならなかったもの」とみなされます。第一順位の相続人がいないということで、第二順位(両親がいれば両親)が相続人になります。
したがって、相続人は配偶者(妻)と両親(第二順位)となります(図右)。
相続の3つの順位
- 配偶者(夫・妻)は常に相続人
- 第一順位がいれば第一順位と配偶者が相続人
- 第一順位(子)が先に亡くなっているときは、その子(孫)が代襲で相続人になる(再代襲もあり)
- 第一順位がいなければ、第二順位(両親がいれば両親、両親が先に亡くなっていればその上の代へ)と配偶者が相続人
- 第一順位と第二順位がいなければ、第三順位と配偶者が相続人
- 第三順位(兄弟姉妹)が先に亡くなっていれば、その子(甥姪)が代襲で相続人になる(再代襲はなし)
相続人が全員相続放棄すると財産はどうなる?
第三順位の相続人まで全員相続放棄をして相続する人がいなくなったときは、家庭裁判所が相続財産の管理人を選任します。相続財産管理人が、被相続人の財産の清算等を行い、被相続人の財産が残っていれば国庫に帰属させます。
事例の解説
父が亡くなった。
配偶者(母)は健在。子は自分1人。父の両親祖父母は亡くなっている。父の兄弟姉妹3人は全員健在。
財産は実家の土地建物と銀行預金。
実家は母が住んでいるので母の名義にする予定。銀行預金も生活費として母が相続する予定。
こういうとき、私(子)は「相続放棄」すればいいんだよね?
子(第一順位)が相続放棄をすると、母(配偶者)と被相続人の兄弟姉妹3人(第三順位)が相続人になります(下図)。
母が実家の土地建物と銀行預金を相続するためには、母と兄弟姉妹3人で遺産分割協議をして『母が実家の土地建物と銀行預金を相続する』ということで話をまとめる必要が生じます。
子(第一順位)が相続放棄をしないと、母(配偶者)と子が相続人になります(下図)。
母と子で『母が実家の土地建物と銀行預金を相続する』という遺産分割協議すれは、母が実家の土地建物と銀行預金を相続できます。
Caseのような場合には、子は相続放棄をせず、母と遺産分割協議をして『母が実家の土地建物と銀行預金を相続する(子は何ももらわない)』とすることをおススメします。
おとはさん
相続放棄のメリット・デメリット
メリット |
債務を相続しない 相続の手続に関与しなくてよくなる |
デメリット |
プラスの財産ももらえなくなる 相続放棄の手続が面倒・費用がかかる |
相続放棄のメリット 債務を相続しない
相続放棄をすると被相続人の債務(マイナスの財産)も相続しません。
したがって、被相続人の借金や未払いの税金など、全てのマイナスの財産を支払う必要が無くなります(マイナスの財産自体が消えて無くなるわけではないので、相続放棄をしなかった他の相続人は支払う必要が残ります。)
相続放棄のメリット 相続の手続から抜けられる
相続放棄をすると「初めから相続人とならなかったもの」とみなされるので、その後の相続の手続(遺産分割協議や相続登記、預金の相続手続など)に関わる必要が無くなります。
相続放棄のデメリット プラスの財産ももらえない
相続放棄をすると被相続人の全ての財産を相続できなくなります。
したがって、被相続人の預貯金や、被相続人名義の実家の土地建物など、全てのプラスの財産を受け取ることができなくなります。
相続放棄のデメリット 相続放棄の手続が厳格・面倒・費用がかかる
相続放棄の手続は、厳格にルールが定められています。決められた期間内(自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内)に家庭裁判所に対し相続放棄申述書を提出しなければなりませんし、その際に費用も必要になります。また、専門家に手続のサポートを依頼すると、その分の費用が必要になります。また、相続を承認するような行動をとってしまうと、相続放棄ができなくなります。
相続放棄と遺産分割協議を比べてみる
遺産分割協議の問題点
遺産分割協議で債務(マイナスの財産)を相続する人(借金を引き受けてくれる相続人)を決めることはできます。しかし、遺産分割協議で借金を引き受ける人を決めても、債権者に対しては相続人は法定相続割合で債務を負うことになります(借金を引き受けてくれる人を決める取り決めは、相続人同士では有効だが、債権者に対してその取り決めは主張できません)。
相続放棄・遺産分割協議の比較表
相続放棄 | 遺産分割協議 |
家庭裁判所で手続 | 相続人全員で話し合い |
自己のために相続の開始があったことを 知ったときから3か月以内 | 特に期限はない |
各相続人が単独でできる | 相続人全員で話し合う |
相続放棄した人は、 プラスの財産もマイナスの財産も すべて引き継がない | 財産を誰が引き継ぐか 相続人の話し合いで決める |
相続放棄なのか遺産分割なのかのポイント
相続放棄する前に考えた方がいいこと
- 相続したい(引き継ぎたい)財産が何もないか
- 自分が相続放棄すると、後順位の人が相続人になり困らないか
- 自分が相続放棄すると、後順位の人などにマイナスの財産の相続が行ってしまい困らないか
相続放棄を思いとどまる例
- 「今住んでいる家は父(被相続人)名義だった。相続放棄して住めなくなると困る。」
- 「自分が相続放棄をすると、母と叔父さん叔母さん(第三順位)が相続人になる。母と叔父さん叔母さんは何年も疎遠で話し合いができそうにない。」
- 「自分が相続放棄をすると、母と叔父さん叔母さん(第三順位)が相続人になる。叔父さんにお金に困っている人がいて、話し合いが揉めそう。」
- 「自分が相続放棄をすると、叔父さん叔母さん(第三順位)が相続人になる。叔父さん叔母さんに借金が行くのは困る。」
相続放棄はどういう人がやるの?
相続放棄は、次のような人がおこなうことが多いです。
- 被相続人にマイナスの財産が多く、相続したいプラスの財産がないという人
- 被相続人や他の相続人と疎遠で相続の手続に関与したくないし、相続したい財産もないという人
おとはさん
最後に
おとはさん
最後までお読みいただき、ありがとうございました。この記事は、おとは司法書士事務所が作成しております。
おとは司法書士事務所では、日本全国から相続放棄や相続登記のご依頼を受け付けております。
おとは司法書士事務所の相続登記は、戸籍等の必要書類の収集から、遺産分割協議書の作成、登記申請など、不動産の名義変更に必要な手続が全てセットになっております。わかりやすい説明で、皆様に安心してお任せいただけるように心がけております。
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